「お金で幸せは買えないが、不幸は減らせる」は本当か|年収と幸福のデータで確かめる
「お金で幸せは買えないが、不幸は減らせる」は、研究のデータに照らすと、半分は当たり、半分は言い過ぎです。
当たっている側から書きます。米国の45万件超の回答を分析した2010年の研究は、収入が低いと、離婚・病気・孤独といった不運のつらさが強まると報告しました。2023年の研究では、収入が高い人ほどその瞬間の気分がよい傾向がありましたが、最も不幸な15〜20%ほどの人では、世帯年収10万ドルあたりから先でその傾向がほぼ止まっていました。著者らは、失恋・死別・うつ病のように、高い収入でも和らがない苦しみがその理由の例かもしれないと書いています。
言い過ぎの側は、同じ2023年の研究から分かります。ふだん幸福な多数派では、収入が高いほど幸福感も高く、上位の層では10万ドルを超えると、その差がむしろ大きくなっていました。「お金で幸せは買えない」とは、データからは言い切れません。日本でも、内閣府の調査で世帯年収が高いほど生活満足度が高い傾向が出ています。
ただし、どれも同じ時点で収入の違う人を比べた結果(相関)です。収入を増やせば幸せになると確かめたものではありません。
検索の質問欄には、「お金で幸せは買えないが不幸は減らせるってどういう意味?」「お金があっても幸せでないのはなぜ?」といった問いが並びます。こうした問いの裏には、稼ぐ努力をこれ以上続ける意味があるのか、いくらあれば十分で、その先は何で埋めればいいのか、という心配もあるでしょう。前の記事なぜ1日8時間労働なのかでは、技術の進歩の分を社会が時間でなく主に収入で受け取ってきた、という見方を書きました。では、受け取った収入は、幸福とどう関わるのか。
研究でいう「幸せ」には二つある
先に、言葉を一つ分けておきます。研究で「幸福」と呼ばれるものには、少なくとも二種類あります。
一つは、その日その瞬間の気分です。楽しい、落ち着いている、悲しい、いらいらする、といった感情の状態で、研究では「感情的な幸福」や「経験としての幸福」と呼ばれます。もう一つは、自分の人生全体をふり返ったときの評価です。「いまの生活にどのくらい満足しているか」を点数で答えるもので、「生活満足度」や「人生の評価」と呼ばれます。
この二つは、同じ人でも別々に動くことがあります。2010年の研究の題名は「高い収入は人生の評価を高めるが、感情的な幸福は高めない」でした(Kahneman & Deaton 2010, PNAS【記事公開日時点で16年前の論文】。英語原文を AI が要約・翻訳)。「お金で幸せは買えるか」という問いは、どちらの幸せを指すかで答えが変わります。
| 研究 | 誰に聞いたか | 何を測ったか | 主な結論 |
|---|---|---|---|
| Kahneman & Deaton(2010) | 米国の住民、45万件超の回答 | 人生の評価と、日々の感情 | 人生の評価は収入とともに上がり続けるが、感情は年7.5万ドルほどで頭打ち |
| Killingsworth ほか(2023) | 米国の18〜65歳の働く人33,391人 | その瞬間の気分 | 頭打ちは最も不幸な層だけ。多数派では上がり続ける |
| 内閣府(2025年報告書) | 日本の15〜89歳のネット調査登録者10,633人 | 生活満足度(0〜10点) | 世帯年収が高いほど平均が高い傾向 |
三つの調査は、聞いた相手も測ったものも違います。以下では数字を直接並べて比べず、それぞれの調査の中で収入とどう並んでいるかを見ていきます。生活満足度のような数字が何を測り、何を取りこぼすかについては、数字にした時点で、何が抜け落ちるのかで扱っています。
米国の研究は「年収10万ドルで頭打ち」と言ったのか
「年収が一定額を超えると幸福度は上がらない」という話は、よく米国の研究を根拠に紹介されます。ただ、その研究自体が、2023年に当の著者を含む共同研究で読み直されています。
2010年の研究が見つけた頭打ち
心理学者ダニエル・カーネマンと経済学者アンガス・ディートンは、米国の世論調査会社ギャラップが米国の住民1,000人に毎日行う調査(Gallup-Healthways Well-Being Index)の45万件を超える回答を分析しました(Kahneman & Deaton 2010)。
結果は二つに分かれました。人生の評価は、収入が高いほど上がり続けました。一方、日々の感情も収入とともに上がりましたが、年収およそ7.5万ドルより先では、それ以上の上昇が見られませんでした。論文の要旨は、低い収入が離婚・病気・孤独といった不運にともなう感情的な痛みを強めると述べ、「高い収入は生活満足を買うが、幸福は買わない」とまとめています。また、収入と教育は人生の評価のほうと強く関係し、日々の感情には健康、介護の負担、孤独、喫煙が比較的強く関係していたと報告しています(英語原文を AI が要約・翻訳)。
「お金で幸せは買えないが不幸は減らせる」という言い方は、この論文の結論にかなり近い形をしています。
2023年の再分析で分かったのは、頭打ちが不幸な人に限られること
その後、心理学者マシュー・キリングズワースが、スマートフォンで1日に何度も気分を尋ねる方法で集めたデータから、7.5万ドルを超えても幸福感は上がり続けると報告しました。結果が食い違ったため、カーネマンとキリングズワースは、意見の対立する研究者どうしが仲裁役を立てて一緒に分析する形をとり、心理学者バーバラ・メラーズを仲裁役に、キリングズワースのデータを分析し直しました(Killingsworth, Kahneman & Mellers 2023, PNAS【記事公開日時点で3年前の論文】。PNAS のページにアクセスできなかったため、全文は公開 PDFで確認。英語原文を AI が要約・翻訳)。
対象は米国の18〜65歳の働く人33,391人で、世帯年収が1万ドル以上の人です。集めた気分の回答は172万件を超えます。世帯年収の中央値は8.5万ドルでした。
分析では、人を「ふだんの幸福感の高さ」で並べ、低い層から高い層まで、それぞれで収入と幸福感の関係を調べました。
| 幸福感の高さ(下から何%の位置) | 10万ドル未満での傾き | 10万ドル以上での傾き |
|---|---|---|
| 5% | 2.34 | 0.25 |
| 15% | 1.90 | 0.34 |
| 30% | 1.33 | 1.21 |
| 50% | 1.25 | 1.47 |
| 70% | 1.18 | 1.92 |
| 85% | 0.78 | 1.99 |
出典:Killingsworth ほか(2023)の Table 1 と Fig. 2(論文の値。一部の位置を抜き出しています)。傾きは、収入が高い人ほど幸福感が高い度合いを表し、0に近いほど頭打ちに近いことを示します。
最も不幸な5〜15%の位置では、10万ドル以上での傾きは統計的に意味のある大きさになりませんでした。ここが2010年に見つかった頭打ちに当たります。一方、真ん中の50%の位置では10万ドルを超えても同じように上がり、85%の位置では、10万ドルを超えると傾きがはっきりと大きくなっていました(70%の位置でも同じ向きですが、統計的に意味のある差には届いていません)。
論文はこの結果から、2010年の研究が使った質問は、不幸の度合いはよく区別できても、幸福の度合いの違いは区別しにくかった可能性があると説明しています。頭打ちは「誰にでも起きること」ではなく、「不幸な人に起きること」だった、という読み直しです。著者らは、高い収入でも和らがない苦しみとして、失恋・死別・うつ病を例に挙げています。ただし、これは理由の推測として書かれたもので、データで確かめた内容ではありません。
効果は思ったより小さい
この研究には、もう一つ見落とされやすい数字があります。平均的な幸福感と収入(対数をとった値)の相関は0.09でした。世帯年収1.5万ドルの人と25万ドルの人を比べても、幸福感の中央値の差は100点満点でおよそ5点です。
収入と幸福感は確かに一緒に動いていますが、その結びつきは弱く、年収が十倍以上違っても気分の差はわずかです。「お金で幸せは買える」と言い切るにも、この数字は小さすぎます。
また、著者ら自身が、この結果は同じ時点で収入の違う人を比べた関連(横断的な関連)を記述したものだと明記しています。年収50万ドルを超える人は全体の1.2%しかおらず、一つの区分にまとめて分析されているので、ごく高い収入について何かを言うのにも向きません。相関に何を足せば原因と言えるのかは、相関関係と因果関係の違いで詳しく扱っています。
日本では年収と生活満足度はどう並んでいるか
日本では、内閣府が毎年「満足度・生活の質に関する調査」を行っています。
誰に、何を聞いた調査か
世帯年収別の分析が載っている最新の版は、2025年の報告書です(内閣府「満足度・生活の質に関する調査報告書2025」)。対象は日本国内に住む15〜89歳で、インターネット調査会社に登録しているモニターです。調査期間は2025年3月14日〜31日、回答者は10,633人でした(同 p.50)。生活満足度は、「現在の生活にどの程度満足しているか」を0〜10点で答えてもらう、人生の評価に当たる指標です。米国の2023年の研究が測った「その瞬間の気分」とは別物です。
この調査はネットの登録モニターに尋ねたもので、日本に住む人全体を代表するように選ばれた標本ではありません。
世帯年収が高いほど、満足度の平均も高い
2025年の報告書は、世帯年収を「100万円未満」から「1,000万円以上」までの6区分に分け、「すべての指標で、世帯年収が高いほど、スコアが高い傾向が見られた」と書いています(同 p.23〜24、図表2-8)。この図には数値の表示が無いため、この記事では区分ごとの値は書きません。
数値つきで確かめられるのは、40〜64歳を世帯年収3区分で分けた図表3-3です。共働きを分析した節にある図で、ここでは、配偶者のいない人も含めた全体の値を引きます。年収の区分ごとに、単身か夫婦かといった構成も違う点に注意が要ります(同 p.27・p.29)。
| 40〜64歳・世帯年収 | 生活満足度(0〜10点) |
|---|---|
| 男性・500万円未満 | 4.50 |
| 男性・500万円以上1,000万円未満 | 5.66 |
| 男性・1,000万円以上 | 6.39 |
| 女性・500万円未満 | 5.18 |
| 女性・500万円以上1,000万円未満 | 6.14 |
| 女性・1,000万円以上 | 6.74 |
男女とも、世帯年収の区分が上がるほど平均が高くなっています。ただ、年収の区分が粗く、1,000万円より上は一つにまとめられているので、どこかで頭打ちになるかどうかはこの表からは分かりません。
最新の2026年報告書(2026年2月27日〜3月14日に調査、回答者10,632人)では、生活満足度の全体の平均は5.86点で、前回の5.79点から0.06ポイント上がりました(内閣府「満足度・生活の質に関する調査報告書2026」 p.3)。同じ報告書で、正規の職員・従業員は5.91点、非正規は5.54点です(同 p.6)。ただし、この差には収入のほかに、仕事の安定や働く時間の違いも混ざっています。2026年報告書の本文と参考図には、世帯年収別の図は見当たりませんでした。
中間の年収帯で上がり方のゆるやかな項目もある
2025年報告書には、もう一つ目を引く記述があります。並べた指標のうち「人々に支えられている」と感じるかどうかの項目は、ほかの4項目と異なり、世帯年収100万円から1,000万円の間での上昇幅が比較的ゆるやかだった、というものです(同 p.23)。この項目も、最も低い区分と最も高い区分を比べれば高い区分のほうが高く、年収と無関係というわけではありません。
この項目は、100万円から1,000万円の範囲では、ほかの項目ほど年収と一緒には上がらない、ということです。2010年の研究が日々の感情と強く関係していたと報告した孤独とは測っているものが違いますが、人とのつながりには、収入とは別の事情も効いている可能性を示す材料の一つです。
結婚の喜びには慣れやすく、失業や死別のつらさは残りやすい
ここまでのデータは、「収入が高い人ほど、平均して少し幸福」と言っています。では、収入が増えた人は、その分だけ幸福になり続けるのか。この問いを考えるのに、心理学と経済学から二つの考え方を借ります。
人は何にでも慣れるのか
一つは、人は良い出来事にも悪い出来事にもいずれ慣れて、もとの幸福の水準に戻る、という考え方です。「快楽の踏み車」と呼ばれ、心理学では、人にはそれぞれ戻っていく幸福の水準(設定点)があるとする「設定点モデル」として整理されてきました。
心理学者リチャード・ルーカスは2007年の論文で、この考え方をドイツと英国で同じ人を長く追いかけた調査で検討しました(Lucas 2007, Current Directions in Psychological Science 16(2)【記事公開日時点で19年前の論文】。英語の要旨を AI が要約・翻訳)。結論は、慣れはある程度は起きるが、離婚、配偶者との死別、失業、障害は、生活満足度に長く続く変化と結びついていた、というものです。慣れる度合いには個人差も大きく、論文は、適応は避けられないものではないとまとめています。
この論文を紹介した記事によると、結婚の前後に高まった満足度は、平均すると、2年ほどのうちにもとの水準に戻っていました。一方、配偶者との死別からの回復には時間がかかり、離婚と失業では、平均するともとの水準まで戻っていませんでした(ScienceDaily, 2007【記事公開日時点で19年前の記事】)。失業で失われるものを収入・承認・意味に分けて考えた記事として、「仕事を奪われる」とき、失われるのは何かもあります。
国が豊かになっても幸福は上がらない、という逆説
もう一つは、経済学者リチャード・イースタリンの名前がついた「イースタリンの逆説」です。ある時点で比べると豊かな人ほど幸福なのに、国全体の所得が長い期間で上がっても、国の平均的な幸福は上がらない、という観察です。
イースタリンらは2010年の論文で、10年以上の長い期間で見ると、途上国、社会主義から資本主義へ移った東欧の国々、先進国のいずれでも、国の所得の伸びと幸福の伸びは結びついていないと報告しました。景気が良くなると幸福が上がり、悪くなると下がるという短期の動きはあるものの、長期の関係とは別だという主張です。時系列でも正の関係があるという批判に対しては、統計上の見かけか、短期と長期の関係の取り違えによるものだと反論しています(Easterlin et al. 2010, PNAS 107(52)。IZA の書誌・要旨ページ【記事公開日時点で16年前の論文】。英語の要旨を AI が要約・翻訳)。
二つを並べると、問いの形が変わります。結婚のような良い変化には慣れやすく、失業や死別のような一部の不幸は長く残る。そして国全体が豊かになっても、平均的な幸福が長い期間で上がるとは限らない(この点には、後で紹介する強い異論があります)。「お金で幸せは買えるか」という問いは、「お金で手に入るもののうち慣れてしまうものは何で、お金があっても慣れにくい不幸は何か。そのうちお金で和らぐのはどれか」という問いに言い直せます。
不幸がどこから来ているかで、お金の効き方は変わる
ここからは見立てです。
お金で減らせるのは主に、足りないことから来る不幸です。そして、収入と気分の結びつきは、不幸な人ほど早く途切れ、すでに満ち足りている人ほど高い収入まで続きます。だから「いくらあれば十分か」は、金額そのものよりも、いま自分の不幸がどこから来ているかによって変わる、と考えます。
根拠は次のとおりです。2010年の研究は、低い収入が離婚・病気・孤独のつらさを強めると報告しました。足りないことが、ほかの不運の痛みを重くするということです。2023年の研究では、最も不幸な層だけ10万ドル以上で傾きがほぼ0になり、幸福な層では逆に大きくなっていました。著者らが挙げた失恋・死別・うつ病は、どれもお金の不足から来るとは限らない不幸です。日本の2025年報告書では、100万〜1,000万円の範囲で、「人々に支えられている」感覚の上がり方がほかの項目よりゆるやかでした。これは見立てを補う材料の一つにとどまり、強い根拠ではありません。さらにルーカスの整理は、死別や失業のような一部の不幸が、慣れによっても消えにくいことを示しています。
この見立てに立つと、「稼ぐ努力をこれ以上続ける意味はあるか」という心配は、二つに分けて考えられます。家計の不安や、病気になったときの備えの不足のように、足りないことがつらさの源なら、収入はそれを和らげる方向に働きうる。人間関係や喪失、心の不調がつらさの源なら、収入を増やしても届きにくいかもしれない。どちらの場合も、これは同じ時点の比較から読んだ傾向で、収入を増やした結果を確かめたものではありません。
「お金で幸せは買える。頭打ちは無い」という考え方
いちばん強い反対の考え方は、「お金で幸せは買える。頭打ちは無い」というものです。
これを代表するのが、経済学者ベッツィー・スティーブンソンとジャスティン・ウォルファーズの2008年の論文です。二人は多くの国のデータを使い、国の一人あたり所得と平均的な幸福の間にはっきりした正の関係があり、豊かな国でも、それ以上は幸福が上がらないという点(飽和点)の証拠は見られないと報告しました。同じ国の中で時間を追っても、経済成長は幸福の上昇と一緒に起きていたとし、イースタリンの逆説に異を唱えています(Stevenson & Wolfers 2008, Brookings Papers on Economic Activity【記事公開日時点で18年前の論文】。英語の要旨を AI が要約・翻訳)。
この考え方の強みは、最新の大規模なデータとよく合うことです。2023年の研究でも、人口の多数派では10万ドルを超えても幸福感は上がり続け、上位の層ではその伸びが大きくなっていました。「お金で幸せは買えない」という言い方を、事実で崩せる立場です。
弱みは三つあります。一つは、効果の小ささです。2023年の研究では、収入と幸福感の相関は0.09で、年収が十倍以上違っても100点満点で約5点の差でした。頭打ちが無いことと、大きく効くことは別です。二つ目に、国の長期の動きについては、イースタリンらが、正の関係に見えるのは統計上の見かけか、短期の景気の動きを長期と取り違えたためだと反論しており、決着していません。三つ目に、この立場が使うデータも、ほとんどが同じ時点や国どうしの比較で、収入を増やしたら幸福が上がることを直接確かめたものではありません。
逆に、この記事の見立てにも弱点があります。見立ての中心は2023年の研究の分位ごとの傾きで、それは米国の働く人の、その瞬間の気分についての結果です。日本の生活満足度で「不幸な人ほど早く頭打ちになる」かどうかは、今回確かめた資料では分かりません。
別の結論になる条件も書いておきます。日本で1,000万円より上をさらに細かく分けた調査が、そこで生活満足度の頭打ちを示すなら、日本については「人生の評価も頭打ちになる」と書き直す必要があります。また、収入の変化を原因として切り分けた研究が、最も不幸な層でも追加の収入が気分をはっきり改善すると示すなら、「お金が届きにくい不幸がある」という見立ての中心が崩れます。
まだ分かっていないこと
収入を増やしたら幸せになるのか、という因果の問いには、この記事で使ったデータでは答えられません。どれも同じ時点で収入の違う人や国を比べたものです。宝くじの当選や現金給付のように、収入の変化を外から与えた研究もありますが、今回は一次資料を確かめていないため書いていません。
日本で、どのくらいの年収で生活満足度が頭打ちになるかを示すデータも、確認できませんでした。内閣府の区分は1,000万円以上が最上位で、そこから先は分かりません。
人が収入の増加そのものにどれだけ慣れるのかも、今回確かめた資料の範囲では分かりません。ルーカスの論文が扱ったのは、結婚・離婚・死別・失業・障害といった出来事です。
国の所得と幸福の長期の関係については、イースタリンらとスティーブンソン、ウォルファーズの間で結論が対立したままです。
まとめ
「お金で幸せは買えないが、不幸は減らせる」は、2010年の米国の研究の結論にはかなり近い言い方です。ただ、2023年の再分析では、収入と気分の結びつきが途切れるのは最も不幸な15〜20%ほどの層だけで、多数派では収入が高いほど幸福感も高く、上位の層ではむしろ強まっていました。その一方で、結びつきそのものは弱く、日本の生活満足度でも年収とともに平均は上がりますが、支えられている感覚のように、年収の中間帯では上がり方のゆるやかなものもあります。
この記事の見立ては、お金が減らせるのは主に足りないことから来る不幸で、「いくらで十分か」は金額より不幸の出どころで変わる、というものです。反対の考え方は「頭打ちは無い」というもので、大規模なデータと合いますが、効果は小さく、因果も確かめられていません。日本の高い年収帯を細かく分けた調査や、収入の変化を原因として切り分けた研究が出れば、見立ては確かめ直せます。
参考文献
- Kahneman, D. & Deaton, A. (2010). High income improves evaluation of life but not emotional well-being. PNAS, 107(38), 16489–16493. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2944762/
- Killingsworth, M. A., Kahneman, D. & Mellers, B. (2023). Income and emotional well-being: A conflict resolved. PNAS, 120(10), e2208661120. https://doi.org/10.1073/pnas.2208661120 (公開 PDF:https://andrewmbailey.com/money/readings/killingsworth.pdf )
- 内閣府「満足度・生活の質に関する調査報告書2025」https://www5.cao.go.jp/keizai2/wellbeing/manzoku/report09.pdf
- 内閣府「満足度・生活の質に関する調査報告書2026」https://www5.cao.go.jp/keizai2/wellbeing/manzoku/file/report10.pdf
- Lucas, R. E. (2007). Adaptation and the set-point model of subjective well-being: Does happiness change after major life events? Current Directions in Psychological Science, 16(2), 75–79. https://www.psychologicalscience.org/journals/current-directions/j.1467-8721.2007.00479.x/
- ScienceDaily(2007年3月)Lucas (2007) の紹介記事 https://www.sciencedaily.com/releases/2007/03/070305140916.htm
- Easterlin, R. A., Angelescu McVey, L., Switek, M., Sawangfa, O. & Smith Zweig, J. (2010). The happiness–income paradox revisited. PNAS, 107(52), 22463–22468. 書誌・要旨:https://www.iza.org/publications/dp/5799
- Stevenson, B. & Wolfers, J. (2008). Economic Growth and Subjective Well-Being: Reassessing the Easterlin Paradox. Brookings Papers on Economic Activity, Spring 2008. https://www.brookings.edu/articles/economic-growth-and-subjective-well-being-reassessing-the-easterlin-paradox/
**確認できず、書かなかったこと。**2025年報告書の図表2-8(世帯年収6区分)は図に数値の表示が無く、元データ(EXCEL)を確認できなかったため、区分ごとの値は書いていません。「快楽の踏み車」という言葉の由来とされる1970年代の論文や、宝くじ当選者の研究は、原典を確認できなかったため扱っていません。日本でよく紹介される「年収○○万円で幸福度は頭打ち」といった数字も、出典を確認できなかったため使っていません。「お金で幸せは買えない」という言い回しは、特定の人の言葉かどうかを確認できなかったため、格言として扱っています。
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著者:叡網 Lab AI